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高松高等裁判所 平成10年(ネ)357号 判決 1999年1月26日

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人と被控訴人土佐観光施設株式会社との間において、控訴人が高知ゴルフ倶楽部個人正会員たる地位を有することを確認する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人土佐観光施設株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  主位的請求

主文二項同旨。

3  予備的請求

控訴人と被控訴人高知ゴルフ倶楽部との間において、控訴人が高知ゴルフ倶楽部個人正会員たる地位を有することを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人高知ゴルフ倶楽部の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  争いがない基礎事実

1  被控訴人土佐観光施設株式会社(以下「被控訴人会社」という)は、ゴルフ場並びにこれに付帯する設備の建設及び利用等を目的とする会社である。

2  被控訴人高知ゴルフ倶楽部(以下「被控訴人倶楽部」という)は、被控訴人会社に付属し、被控訴人会社のゴルフ業務を代行し、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図ることを目的とする団体である。

3  控訴人は、昭和37年12月14日ころ、被控訴人クラブに対する個人正会員権者たる地位(以下「本件会員権」という)を取得した。

4  被控訴人らは、控訴人が本件会員権を有することを争っている。

二  なお、控訴人は、被控訴人倶楽部が昭和52年1月1日付をもって社団でなくなった旨主張し、被控訴人らはこれを争っている。

三  当事者の主張

1  被控訴人ら

控訴人は、次のとおり、昭和38年6月1日に本件会員権を喪失した。

(一) 控訴人が被控訴人倶楽部に入会した当時(昭和37年12月14日頃)、被控訴人倶楽部の規約には、同被控訴人の個人正会員の資格要件として、被控訴人会社の株式を2株以上保有すべき旨の規定があった。

被控訴人倶楽部は、昭和38年3月26日、会員総会を開催し、同総会は、右規定を改正して、資格要件の株式保有数を「2株以上」から「3株以上」とし、かつ、これを既存の会員にも適用し、この資格要件を充たさない既存会員は、その地位を失う旨決議した(以下、同改正規定を「本件改正規定」といい、同決議を「本件改正決議」という)。

本件改正規定は、総会の決議に基づき、昭和38年6月1日から施行された。

(二) 右当時、被控訴人倶楽部の会員総会には、本件改正決議を行う権能があった。

2  控訴人

控訴人は、次のとおり、本件会員権を喪失していない。控訴人は、現時点においても、本件会員権者たる地位を有している。

(一) 本件改正規定に遡及効はなく、本件決議以前に被控訴人倶楽部の会員となった控訴人に対して、本件改正規定の適用はない。

(二) 2株の会員資格の定めは、控訴人と被控訴人倶楽部との間において締結された入会契約の中に織り込まれて契約の一部となっているので、契約の一方当事者であるにすぎない同被控訴人が、一方的に、控訴人に対し会員資格に関する本件改正規定を遡及させて適用することは、入会契約に違反するものであって許されない。

(三) 被控訴人倶楽部と被控訴人会社とが相謀って、被控訴人倶楽部会員に対し心理的強制を加え、新株の引き受けを強要することは、株主の保護を目的とする強行規定である商法200条1項の趣旨を潜脱する違法行為であって許されない。

(四) 被控訴人倶楽部の会員総会には、憲法の保障する財産権である本件会員権を奪うような決議をする権能はない。

第三  当裁判所の判断

一  事実認定

原判決5枚目表1行目から7枚目表4行目までを引用する。

ただし、次のとおり補正する。

1  6枚目表2行目の「被告クラブ」を「被控訴人倶楽部」と改める。

2  6枚目裏3行目の「被告倶楽部」から同8行目までを次のとおり改める。

「被控訴人倶楽部の規約中の、個人正会員についての資格要件の株式保有数を『2株以上』から『3株以上』とし、かつ、これを既存の会員にも適用し、この資格要件を充たさない既存会員は、その地位を失う旨決議した(本件改正規定、本件改正決議)。本件改正規定は、総会の決議に基づき、昭和38年6月1日から施行された。」

3  同9行目から7枚目表4行目までを次のとおり改める。

「その後、被控訴人倶楽部では、本件改正決議同様の規約改正が行われ、個人正会員の保有すべき被控訴人会社の株式数は、昭和40年12月に4株以上、昭和41年9月に6株以上、昭和44年5月に8株以上と改正されている。」

二  控訴人は本件会員権を喪失したか

1  前示のとおり、控訴人が、昭和37年12月14日ころ、被控訴人倶楽部に対する個人正会員権者たる地位(本件会員権)を取得したことは、当事者間において争いがない。

これに対し、被控訴人らは、昭和38年3月26日の被控訴人倶楽部会員総会における本件改正決議にかかる本件改正規定により、控訴人が本件会員権を喪失した旨主張する。

しかし、当裁判所は、本件改正規定の効力を、既存の会員である控訴人に及ぼすことはできないものと判断する。その理由は次のとおりである。

2  本件ゴルフ場は、いわゆる株主会員制のゴルフ場である。このため、控訴人は、被控訴人会社の2株の株主となるとともに、被控訴人倶楽部に入会の申入れをし、同倶楽部がこれを承諾したことによって、同倶楽部会員権者たる地位(本件会員権)を取得した。すなわち、控訴人は、被控訴人倶楽部の資格要件である保有株式数が2株以上である旨の規約を前提として、入会の申入れをし、同被控訴人も、同規約を前提として入会の承諾をしたのである。

そうすると、控訴人と被控訴人倶楽部との基本的法律関係は、右入会契約が締結された当時における被控訴人倶楽部の規約に基づいて定められたものというべきである。そして、このようにして定められた会員の契約上の基本的な権利を変更するには、会員の個別的な承諾を得ることが必要である。そうであるのに、右承諾が得られた形跡はない。

もっとも、右入会契約当時の規約には、規約の改正手続が定められており、本件改正決議も、これに基づいている(理事会の3分の2以上の発議により、総会の出席会員の過半数の賛成による承認、乙4、弁論の全趣旨)。しかし、既に入会契約を締結して会員となった者の資格要件である株式保有数を増加するというような、その契約上の基本的な権利に対して重大な変更を伴う規約の改正は、このような改正を行い得る旨の規約上の明示の定めがない限り、右改正手続の定めの予定するところではないものというべきである。ところが、被控訴人倶楽部の規約には、右入会契約当時を含めて、右のような改正を行い得る旨の明示の定めがあるとは認められない。

したがって、控訴人の承諾がない以上、被控訴人倶楽部は本件改正決議に基づき控訴人の本件会員権を喪失させることができない。

3  なお、被控訴人らは、被控訴人倶楽部には、本件ゴルフ場の施設拡充の費用調達のために、本件改正決議をする必要性があったから、同倶楽部総会には同決議をする権能があり、同決議は控訴人に対して効力を有する旨主張する。

しかし、本件ゴルフ場の施設拡充の費用調達は、被控訴人会社が、新株発行により行ったものである。そうであるから、既存会員である株主は、新株の引受を強制されるものではない。また、本件ゴルフ場の施設拡充部分は、会社の既存財産とともに、株主に割合的に帰属するにすぎない。このため、既存会員(株主)であっても、新株の引受をしなければ、その割合的帰属分は減少する。したがって、この点を考慮すると、たとえ新株引受による費用調達によって会社財産が増加したとしても、既存会員(株主)で新株の引受をしなかった者が、不当な利益を受けるものではないことが明らかである。

もっとも、本件ゴルフ場の施設拡充が行われることにより、控訴人は、同拡充部分の利用をすることが可能となるから、控訴人は、投下資本を負担することなくして、より利用価値の増加したゴルフ場を利用できるという利益を受けることになる。

しかし、前示2のとおり、控訴人と被控訴人倶楽部の基本的な法律関係は、両者が入会契約をした当時の規約によって定められている。そうであるから、右入会契約に、ゴルフ場の施設拡充の際の費用負担に関する定めがない以上、被控訴人倶楽部は、控訴人が費用負担(新株引受)をしないからといって、控訴人の契約上の基本的権利である本件会員権を喪失させることはできない。また、前示2のとおり、たとえ規約に改正手続の定めがあるとしても、これによって本件会員権を喪失させることはできない。

4  以上によれば、本件改正規定の効力を、既存会員である控訴人に及ぼすことはできないものというべきである。

なお、本件改正決議以降の同様の規約改正についても、前認定判断のとおりであるから、これらの効力を控訴人に及ぼすことができない。

三  確認の利益

1  控訴人は、主位的請求として、控訴人と被控訴人会社との間において、控訴人が高知ゴルフ倶楽部個人正会員たる地位(本件会員権)を有することの確認を求めている。

そして、前示二のとおり、控訴人が本件会員権を有することが認められる。

これに対し、前示第二の一4のとおり、被控訴人会社は、控訴人が本件会員権を有することを争っている。そして、証拠(乙23)によると、被控訴人倶楽部は、被控訴人会社に対し、昭和52年1月1日をもって、それまで被控訴人倶楽部が行っていた本件ゴルフ場の営業を譲渡したことが認められる。そうであるから、右営業譲渡後は、被控訴人会社が被控訴人倶楽部に代わって、本件ゴルフ場施設を利用させる役務の提供義務を控訴人に対して負うことになった。

したがって、被控訴人会社において控訴人が本件会員権を有することを争っている以上、控訴人には本件会員権を有することの確認を求める利益がある。

そうすると、控訴人の主位的請求は理由がある。

2  ところで、<証拠略>によれば、被控訴人倶楽部は、前示1の営業譲渡後も、依然として、その組織、意思決定及び業務執行手続の定め、財産管理の定め等に照らし、団体としての主要な点が確定していると認められるから、権利能力なき社団であるといえる。

しかし、前示1のとおり、控訴人が本件会員権を有し、被控訴人倶楽部から本件ゴルフ場の営業譲渡を受けた被控訴人会社がこれを争っている以上、被控訴人倶楽部が社団性を失ったかどうかにかかわりなく、控訴人には、被控訴人会社との間において、控訴人が本件会員権を有することの確認を求める利益がある。

すなわち、被控訴人倶楽部が社団でないことは、控訴人の主位的請求原因とはならない。

なお、控訴人の原審における準備書面(平成10年5月20日付)第一の四には、あたかも、被控訴人倶楽部が社団でない場合には主位的請求を、同倶楽部が社団である場合には予備的請求をするかのような記載がある。

しかし、右書面第一の三の記載及び控訴状における控訴の趣旨の記載を考え併せると、控訴人は、被控訴人ら両名のうち、控訴人に対して本件ゴルフ場施設を利用させる役務の提供義務を負う者を相手方として、主位的請求訴訟を提起しているものといえる。したがって、前示1のとおり被控訴人会社が営業譲渡を受けることにより右役務の提供義務を負うものといえる以上、控訴人は、被控訴人倶楽部が社団であるか否かにかかわりなく、被控訴人会社に対して主位的請求をしているものというべきである。

四  まとめ

以上のとおり、控訴人の主位的請求は理由があるから、これを認容すべきである。

五  結論

よって、前示四と異なる原判決は相当でなく、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人の主位的請求を認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条2項、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 杉江佳治 重吉理美)

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